舟越保武（ふなこし やすたけ、1912年12月7日～2002年2月5日）は、岩手県一戸町出身の彫刻家。東京美術学校彫刻科塑像部で学び、同級生に佐藤忠良らがいた。1939年に卒業後、新制作派協会彫刻部の創立に参加し、会員となる。1962年「長崎26殉教者記念像」で第5回高村光太郎賞を受賞、1972年「原の城」で第3回中原悌二郎賞を受賞、1977年「道東の四季-春」で第1回長谷川仁記念賞を受賞。東京藝術大学教授、多摩美術大学教授を歴任し、1999年には文化功労者に選ばれた。晩年は脳血栓を患いながらも創作を続けた。作風は、ヨーロッパ近代彫刻に学びつつ、彫刻本来の量感と、絵画的な正面性を意識した独自の表現を確立。深い詩情と高い知性に支えられた作品は、戦後日本の具象彫刻の中でも特に高く評価された。

舟越保武「ANN」1983年作 ブロンズ 高さ47cm 18kg
本作「ANN」は、彫刻家・舟越保武（1912-2002）による1983年制作のブロンズ作品であり、オリジナル一点物です。重さ17.9kgの堂々たる質量を持ちながら、その姿は驚くほど静かで、繊細な詩情をたたえています。柔らかな髪を後ろにまとめ、静かに目を閉じる女性像は、あらゆる装飾を排した純粋な存在感を放っています。滑らかで穏やかな面をもつ造形は、見る者に深い内省の時間を促し、単なる肖像を超えて「精神のかたち」を表現しています。正面からの構成を意識したこの作品には、舟越が生涯追求した「絵画的正面性」と「彫刻本来の量感」が見事に融合しており、近代ヨーロッパ彫刻に学びながらも、独自に昇華された表現がうかがえます。

作者・舟越保武は、岩手県一戸町に生まれ、東京美術学校（現・東京藝術大学）彫刻科塑像部に学び、同期には佐藤忠良らが名を連ねました。1939年に卒業後、新制作派協会彫刻部の創立に参加し、戦後の具象彫刻界を牽引する存在となります。代表作に「長崎26殉教者記念像」や「原の城」などがあり、数々の栄誉を受け、晩年には文化功労者にも選ばれました。その作品群に一貫して見られるのは、内面的な静けさ、深い祈りへのまなざし、そして人間存在に対する慈しみです。

「ANN」においても、舟越彫刻の本質は鮮やかに結晶しています。穏やかな表情の奥に宿る精神性、抑えられた動きの中ににじむ命の鼓動。それらは決して声高に訴えることなく、しかし確かな存在感で、見る者の心に静かに、そして深く響き渡ります。時を超えて語りかけるこの「ANN」は、舟越保武が到達した精神彫刻の高みを物語る、特別な一点といえるでしょう。