離婚話と前後して出た前作『Raymond V Raymond』は、大人の落ち着きを意識したその前の『Here I Stand』の反動からか、多彩なビートに挑むことで若さをいま一度アピールせんとした力作だった。その後に続いた“DJ Got UsFallin' In Love”とデヴィッド・ゲッタ“Without You”への客演もダンス・スターとしての姿を補強するものだったが、この2年ぶりのアルバムにおいてアッシャーは、4つ打ちのエレクトロ路線の先にあるR&Bのニュー・スタイルを意欲的に模索している。意外にもディプロの手によるスロウの先行カット“Climax”がR&Bチャートを制し、直球のダンス曲“Scream”も堅調だが、現行ポップをフォローしすぎない野心的な意匠は新鮮。新たな指標を作り出す役割はいまなお彼に託されているのだ。