朝鮮唐津茶碗・吉祥七角高台
本作は朝鮮唐津の伝統技法を正統に継承しながら、七角高台という吉祥の造形を加えた茶碗である。高度な技術と深い茶道精神を持つ陶工の手になる作品と推察される。
釉薬と景色
黒褐色の鉄釉を器全体に施した後、口縁部から青緑色の海鼠釉を流し掛ける典型的な朝鮮唐津の二重掛け技法を用いている。両釉が溶け合う境界部分では自然な窯変により、予測不能な流動的景色が現れている。深い黒と鮮やかな青緑の対比が美しく、光の当たり方によって表情を変える釉面は、茶席における見所となる。
内面は深い黒褐色の鉄釉で統一され、一部に青緑色の発色が見られる。釉調の変化は窯の炎の動きを物語り、一期一会の美を体現している。外面の青緑釉の流れは、まるで滝が岩肌を流れるような自然の景観を想起させ、見る者の心を清める。
器形と成形
轆轤成形による端正な筒形で、口縁部にわずかな楕円化(口径12.5〜13.5cm)を持たせることで手取りに変化を与えている。この微妙な歪みは、機械的な完璧さを避ける茶陶の美学に通じる。手に取ったときの収まりの良さと、口当たりの柔らかさを計算した造形である。
七角高台の吉祥性
本作最大の特徴は、轆轤で削り出された七角形の高台である。この造形選択には、茶道の根底にある陰陽五行思想が深く関わっている。
茶道では古代中国の陰陽五行思想に基づき、偶数を「陰」、奇数を「陽(縁起の良い数)」として扱う。特に3、5、7の奇数が好まれ、茶道の生花では葉の数を3枚、5枚と奇数にし、お菓子、お花、お茶の数なども、割れない数字を慶事(陽)として扱うことで、調和と発展を願う。
本作の七角高台は、この思想に基づく造形選択であり、陽の気を宿す縁起の良い茶碗として制作されたものである。「七」は3、5と並ぶ吉数であり、仏教における七宝、神道における七福神など、日本文化において特別な霊的意味を持つ数である。作者はこの数を高台の造形に取り入れることで、茶碗に福を招き、使う者に調和と発展をもたらす願いを込めたのであろう。
各面の削りは不均等で、手作業の痕跡を意図的に残している。この素朴な仕上げは、技巧に溺れない無心の境地を示すものである。高台内には明瞭な轆轤目の渦巻きが見られ、職人の手技が生々しく感じられる。七つの面がそれぞれ異なる表情を見せ、手に取って眺めるたびに新たな発見がある。
胎土と焼成
砂気の多い粗めの土を使用し、鉄分を含む灰褐色~茶褐色の胎土を呈する。これは朝鮮唐津に典型的な土質である。高台内は無釉とし、高台脇まで釉薬が自然に流れ落ちる伝統的な掛け分け技法を採用している。粒子の粗さが肉眼で確認でき、土の素朴な表情が活かされている。
焼成は登り窯または灯油窯によるものと推定され、適度な還元焼成により、鉄釉と海鼠釉それぞれの発色が美しく引き出されている。高台畳付には窯砂の付着もなく、丁寧な窯詰めが行われたことが窺える。
様式的背景
朝鮮唐津は、桃山時代末期から江戸時代初期にかけて、朝鮮半島から渡来した陶工たちによって九州・唐津地方で始まった様式である。鉄釉と藁灰釉(海鼠釉)の掛け分けによる独特の景色が特徴で、「一井戸、二楽、三唐津」という茶碗の格付けにも見られるように、古くから茶人に珍重されてきた。
李氏朝鮮の陶工から伝わった伝統的なスタイルで、黒色を付ける鉄釉を上から流し、白色を付ける藁灰釉を下から掛けたもの(または上下逆)で、二つを交わらせて風景を表す。この技法は全国の諸窯に広まったが、唐津における朝鮮唐津は、黒飴釉の部分と海鼠釉の部分を別々に掛け分けて、やや重なり合った部分が高温でガラス化し、黒の部分と白の部分が溶け合う絶妙な色と流れ具合の変化が特徴となる。
本作は伝統的な朝鮮唐津の技法を正統に継承しながら、七角高台という吉祥の造形を加えることで、茶道精神を体現した現代の茶碗である。作者銘こそないが、その技術と美意識、そして茶道に対する深い理解は確かなものであり、実用の茶碗として、また鑑賞陶器として高い価値を持つ。
七角高台という陽の数を選んだ作者の意図は明確であり、この茶碗を使う者に福をもたらし、調和と発展を願う祈りが込められている。茶事において、この茶碗は単なる道具ではなく、陰陽五行の調和を体現する存在として、席に吉祥の気をもたらすであろう。
釉薬の景色、七角高台の造形、そして手作りの温もり—これらすべてが調和し、唯一無二の茶碗として完成している。無銘であることが、かえって使い手との新たな物語を紡ぐ余白を残しているとも言えよう。
寸法
- 口径:12.5〜13.5cm(楕円形)
- 高さ:7.0cm
- 高台径:6.0cm(七角形)
- 重量:359g