以下、所謂ブラクラ妄想ショートショートです〜〜 今回は、サウナ付きの漫画家さんにぜひ描いてもらいたいストーリーです〜最近、なんかショートショートを作るためにをやってるのか?も知れません〜熊本行って黒豚とだんご汁食いたい
金の香煙、魂魄(こんぱく)の龍湯(りゅうとう)
第一章:水底の呼び声、黄金の遺戒(いかい)
緒方健司(おがたけんじ)、三十五歳。東京の古美術オークション会場の喧騒が、彼には遠い音のようにしか聞こえなかった。目の前にあるのは、祖父・謙信(けんしん)の遺した純金香炉。槌目(つちめ)の一つ一つが、執念深く刻まれた記憶のように鈍く光り、総重量502.33gという質量が、健司の掌に冷たく現実を伝えていた。蓋に施された精緻な透かし彫りには、かろうじて「光南」の銘が読み取れる。しかし、それ以上に健司の心を占めていたのは、父・春樹(はるき)が息を引き取る間際に絞り出した言葉だった。「蔵の奥…謙信の…金の香炉…あれは、ただの器ではない…異界への…戒めだ」。
戒め。扉ではなく、戒め。その言葉の不穏な響きが、父との長年の確執、そして厳格で謎多き祖父の晩年の姿と重なり、健司の胸を締め付けた。謙信は、この香炉を「魂魄の器」と呼び、最高級の伽羅(きゃら)を焚いては、「この香りは、半日は鼻の奥に残り、現世(うつしよ)の憂いを忘れさせる至福だ」と、幼い健司に語り聞かせていた。だが、その瞳の奥には、常に深い哀しみと、何かを恐れるような色が宿っていた。春樹は、そんな父の香道への傾倒を「現実逃避の道楽」と唾棄し、香炉の存在すら健司から遠ざけていたのだ。なぜ父は、死の淵で、この香炉に込められた「戒め」という言葉を遺したのか。
熊本への帰郷。父の葬儀は、梅雨の晴れ間の重苦しい空気の中で終わった。叔母の美佐子(みさこ)は、憔悴した健司の背中をそっと押し、「おじいちゃんね、心が乱れた時、よく『湯らっくす』に行ってたのよ。あそこの水風呂で、何かと向き合っていたみたい」と囁いた。
湯らっくす。その名に導かれるように、健司は足を運んだ。熱気と木の香りが混じり合う独特の空間。サウナでじっとりと汗を流し、思考が鈍麻していくのを感じながら、健司は父の言葉を反芻する。そして、覚悟を決めて足を踏み入れたのが、名物「MADMAX」ボタンが鎮座する水風呂だった。赤いボタンに指が触れた瞬間、父の掠れた声が脳内で再生された。「戒めを解くな…しかし…お前なら…」。
ゴオォォォッ!鼓膜を突き破るような轟音と共に、意識がブラックアウトするほどの冷水が全身を叩きつけた。それは単なる水圧ではなかった。まるで意思を持った巨大な手に捕まれ、水底へと引きずり込まれるような感覚。息ができず、もがくことすら許されない。次に目を開けた時、健司は湯らっくすのタイル張りの床ではなく、苔むした岩盤の上に横たわっていた。周囲は薄暗い洞窟のようで、目の前の水面は不気味なほど静かに黄金色の光を放っている。そして、その水面からゆっくりと姿を現したのは、古の甲冑に身を固めた、威厳と殺気を同時に纏う武将だった。手には、あの純金の香炉を、まるで我が子のように抱えている。
「何奴(なにやつ)か…!如何にして『月の戒(かい)』を通り抜け、この『龍の寝所(ねどこ)』へ参った?そして、何故そなたが『陽の香炉』を持つ?」
武将の声は地鳴りのように低く、洞窟全体を震わせた。健司は、湯らっくすのロゴ入りTシャツと短パンという場違いな格好で、ただ呆然と目の前の光景を見つめるしかなかった。陽の香炉。自分の持つ香炉と酷似しているが、より力強く、禍々しささえ感じる意匠。武将は、加藤清正(かとうきよまさ)と名乗った。熊本城を築き、異名を持つ戦国武将。健司は、自分が戦国時代、あるいはそれに酷似した異世界に迷い込んだこと、そして父の遺した「戒め」が、この異世界への通路を封じるものであったことを悟った。
清正は鋭い眼光で健司を射抜きながら続けた。「その陽の香炉は、我が主君、豊臣秀吉公が、遥か南方の『安南国(あんなんこく)の大王』より献上された秘宝。それと共に、この地に眠る『龍脈』を鎮め、我が力とするための至高の香木『伽羅』が数多もたらされた。しかし、その伽羅の真の力を引き出し、龍脈を制御するには、対となる『月の香炉』…我が持つ、この香炉が不可欠。二つの香炉が揃い、正しき者が伽羅を焚いて初めて、龍脈は従う。そなたは、その『陽の香炉』の守り人か?それとも…」
安南国の大王。伽羅。龍脈。健司の脳裏で、歴史の断片と祖父の奇行、父の苦悩が、パズルのピースのように嵌まろうとしていた。戦国武将が、国の存亡を賭けて、異国の秘術と香木に頼っていた。そして、祖父はその秘密の一端に触れ、何かを恐れていた。健司の手にある香炉は、単なる美術品ではなく、世界の均衡を左右するほどの力を秘めた「鍵」であり、同時に「戒め」そのものだったのだ。
第二章:魂の共鳴、伽羅に宿る龍の声
加藤清正の居城の一室。そこは質実剛健ながらも、どこか張り詰めた空気が漂っていた。健司は、自分がこの異世界に「召喚された」のではなく、香炉の戒めが何らかの理由で揺らぎ、「迷い込んだ」のだと理解した。清正は、健司を警戒しつつも、彼が持つ「陽の香炉」に強い関心を示した。それは、この世界の龍脈を完全に掌握するための最後のピースだったからだ。
「安南の大王は、伽羅と共に『龍人(りゅうじん)』と呼ばれる一族をこの地に遣わした」と清正は語る。「彼らは、人の姿をしながらも、その魂に龍の力を宿し、伽羅の香りを触媒として超常の力を発揮する。いわば、伽羅の力を具現化する生きた器よ。しかし、彼らの力はあまりに強大で、制御が難しい。特に、月の香炉だけでは、伽羅の力を完全に調和させることができず、暴走の危険が常につきまとうのだ」。
健司は、祖父の日記の断片を思い出した。『二つの香炉、陰陽一対にして初めて、魂魄は安らぎ、龍は鎮まる。片割れのみでは、力は歪み、災いを招く…』。祖父は、この世界のことを知っていた。そして、陽の香炉を現代に持ち帰り、その力を封じようとしていたのかもしれない。
数日後、健司は、龍人たちが暮らすという山間の里へ案内された。そこは、深い森に囲まれた秘境で、彼らは半ば隠遁するように生活していた。リーダー格の青年、グエンは、鋭い眼差しの中に深い悲しみと警戒心を宿し、健司を一瞥するなり敵意を露わにした。「また新たな枷(かせ)を我らに負わせに来たのか。この地の伽羅は、我らの魂を縛る呪いでもある」。
彼ら龍人は、故郷を遠く離れ、その強大な力を畏怖され、清正でさえも持て余し気味だった。彼らの魂は、この世界の龍脈と強引に結びつけられ、伽羅の力で辛うじて均衡を保っている状態。しかし、その均衡は常に不安定で、いつ破綻してもおかしくなかった。
健司は、父の遺品の中にあった、祖父が特別に調合したという一包みの伽羅を思い出した。それは、安南の伽羅とは異なる、どこか懐かしく、清浄な香りを放っていた。祖父はこの伽羅を「魂鎮め(たましずめ)の伽羅」と呼んでいた。健司は、陽の香炉でこの伽羅を焚くことを提案した。それは、賭けだった。
清正は眉をひそめたが、他に有効な手立てがないことは承知していた。健司が陽の香炉に炭を熾し、魂鎮めの伽羅を乗せると、ふわりと、しかし芯のある芳香が空間に満ちていった。それは、戦場を鼓舞するような猛々しい香りではなく、傷ついた魂を優しく包み込むような、慈愛に満ちた香りだった。
その瞬間、龍人たちの間に静かな衝撃が走った。グエンは、苦悶とも歓喜ともつかない表情を浮かべ、その場に膝をついた。彼の全身から、荒々しい気の奔流ではなく、穏やかで温かな光が立ち上り始めた。「この香り…これは…故郷の…母の…」。彼の瞳から、大粒の涙が溢れ落ちた。
魂鎮めの伽羅の香りは、龍人たちの魂の奥深くに眠る、故郷の原風景、家族との温かい記憶、そして龍の祖霊との純粋な繋がりを呼び覚ましたのだ。それは、力による支配ではなく、魂の共鳴だった。陽の香炉と魂鎮めの伽羅は、彼らの魂を縛る呪いを解き放ち、本来の力を調和の方向へと導いた。
やがて光が収まると、そこにいたのは、以前のような刺々しさが消え、穏やかながらも揺るぎない強さを湛えたグエンだった。彼は健司の前に進み出て、深く頭を下げた。「この香りは、我らが魂の渇望を満たしてくれた。我ら龍人は、この陽の香炉がもたらす調和の力に、我が魂を捧げよう」。
他の龍人たちも、次々と心の鎧を脱ぎ捨て、健司と、彼がもたらした魂鎮めの伽羅の香りに敬意を示した。清正は、その光景を息を呑んで見守っていた。力ではなく、慈愛によって人心を掴む。それは、彼がこれまで経験したことのない統率の形だった。
健司は、祖父が「魂魄の器」と呼んだ香炉の真の意味を、そして父が「戒め」と恐れた力の、もう一つの側面を垣間見た気がした。それは、破壊と創造、束縛と解放、二つの極を持つ、あまりにも強大な力だった。
第三章:マッドマックスの覚醒、異界の湯治問答
龍人たちの魂が調和を取り戻したことで、彼らは伽羅の力をより精妙に操れるようになった。しかし、異能の力を使う代償として、彼らの魂は常に消耗し、龍脈からの過剰なエネルギーの流入にも晒されていた。故郷アンナンには「龍魂の泉」と呼ばれる聖なる湯があり、そこで魂を浄化し、力を回復させていたという。この世界にはそれに代わるものがなく、龍人たちの疲弊は深刻な問題だった。
健司の脳裏に、湯らっくすの温冷浴、そしてマッドマックスボタンを押した瞬間の、全身を貫く衝撃と覚醒の感覚が鮮やかに蘇った。あの強烈な水流は、単なるリフレッシュではなく、魂の深層に働きかける何かがあるのではないか。もしかしたら、この世界の温泉と組み合わせることで、龍人たちの魂を浄化し、龍脈との調和を保つことができるかもしれない。
清正にその考えを伝えると、彼は半信半疑ながらも、領内の山深くにある霊泉へと健司と龍人たちを案内した。そこは、硫黄の香りが立ち込め、岩間から熱泉が湧き出る、まさに秘湯と呼ぶにふさわしい場所だった。健司は、現代の知識と、この世界で手に入る素材を駆使し、即席の蒸し風呂(サウナ)と、冷たい沢水を引き込んだ水風呂を設営した。そして、水風呂には、巨大な岩をくり抜いた樋(とい)を設置し、落差を利用して強烈な水流を生み出す「マッドマックス瀑布(ばくふ)」を創り上げた。
龍人たちは、健司の奇妙な提案に戸惑いながらも、蒸し風呂で汗を流し、意を決してマッドマックス瀑布の冷水に打たれた。ゴウッという轟音と共に叩きつけられる水の暴力的なまでの衝撃。だが、その直後、彼らの表情は驚愕から恍惚へと変わった。「な、なんだこの感覚は…!魂の澱(おり)が洗い流されるようだ!」「龍脈の力が、荒ぶるのではなく、静かに体に満ちてくる…!」。
温冷浴を繰り返すうちに、龍人たちの疲弊しきっていた魂は輝きを取り戻し、その瞳には新たな活力が宿った。特にグエンは、マッドマックス瀑布に打たれながら、天を仰ぎ、歓喜の声を上げた。「これぞ、魂の洗濯!緒方殿、あなたは我らに、故郷の龍魂の泉にも勝る癒やしと覚醒をもたらしてくれた!この湯治法は、我ら龍人の新たな力となるだろう!」
この「異界マッドマックス湯治」は、龍人たちの戦闘能力を飛躍的に向上させただけでなく、彼らの精神的な安定と、龍脈とのより深い調和をもたらした。清正は、健司の持つ現代の知恵と、その柔軟な発想に舌を巻いた。
一方、現代の熊本。高千穂葵は、健司の失踪と、彼が持ち去った純金香炉の謎を独自に調査していた。健司の実家の蔵で見つけた祖父・謙信の古い日記には、おぞましい記述と共に、一縷の望みも記されていた。『二つの香炉、陰陽は互いを求め、共鳴する。龍脈の乱れは、異界の門を歪ませる。安南の秘術、伽羅の魂、そして水の極致なる行…『マッドマックス』と呼ばれし浄化の儀式は、あるいは魂魄を繋ぐ架け橋となるやもしれぬ…』。
謙信は、異界の存在、二つの香炉の秘密、そして「マッドマックス」という言葉すら知っていた。葵は、湯らっくすのあの水風呂が、単なるアトラクションではなく、謙信が研究していた古代の浄化儀式と何らかの関連があるのではないかと直感した。彼女は、謙信が遺した古文書や、彼が収集した異国の香木、金工道具を徹底的に調べ上げ、ついに二つの香炉が時空を超えて共鳴する条件、そして「マッドマックス」がその引き金となり得る可能性に辿り着く。
その頃、異世界の健司は、龍人たちと共に、新たな脅威に直面していた。それは、龍脈の力を悪用し、この世界を混沌に陥れようとする、謎の妖術師の一団だった。彼らは、歪んだ伽羅の力を操り、龍人たちの魂を汚染しようと画策していた。戦いは避けられず、健司は、陽の香炉と魂鎮めの伽羅、そしてマッドマックス湯治で覚醒した龍人たちの力を信じるしかなかった。
第四章:魂魄の交響、時を超えた金の香煙
妖術師たちの力は凄まじく、彼らが操る歪んだ伽羅の瘴気は、龍人たちの魂を蝕み始めた。グエンでさえも苦悶の表情を浮かべ、その力に陰りが見え始める。清正の軍勢も劣勢に立たされ、絶望の色が戦場を覆い尽くそうとしていた。健司は、陽の香炉を握りしめ、最後の望みを託した。それは、祖父が日記の最後に記していた「魂魄の交響」という言葉だった。
『二つの香炉、二つの世界、陰陽が極まりし時、魂魄は交響し、万物は調和に至る…』
健司は、最後の魂鎮めの伽羅を陽の香炉にくべた。そして、目を閉じ、意識を集中する。求めるのは勝利ではない。調和だ。この世界と、自分がいた世界。龍人たちの魂と、それを育んだ大地の魂。そして、香炉に込められた祖父と父の、複雑で、しかし切実な想い。
その瞬間、陽の香炉が、これまでとは比較にならないほどの眩い黄金の光を放った。槌目の一つ一つが生命を宿したかのように脈打ち、透かし彫りからは、虹色の光を纏った、神々しいまでの伽羅の香りが、竜巻のように立ち昇った。それは、もはや単なる香りではなかった。それは、魂そのものの波動であり、宇宙の創造にも似た、始まりの音だった。
同じ頃、現代の熊本。高千穂葵は、湯らっくすの静まり返った浴室で、マッドマックスボタンの前に立っていた。彼女は、謙信の日記と古文書の解読に基づき、特定の月の満ち欠け、時刻、そして何よりも強い意志が、二つの世界を繋ぐ鍵だと確信していた。彼女は、健司を救いたい、ただその一心で、静かに息を吸い込み、赤いボタンを押し込んだ。
ゴオォォォッ!水流が葵の全身を打つ。だが、それは冷たさだけではなかった。彼女の意識は、激しい光と共に時空の奔流に飲み込まれ、異世界で戦う健司の魂と、そして陽の香炉と、強く、しかし優しく結びついた。葵が傍らに置いた、謙信が陽の香炉を模して作った小さな試作品の香炉(そこにも微量の魂鎮めの伽羅が焚かれていた)が、陽の香炉と激しく共鳴し、黄金の光の柱となって天を貫いた。
二つの世界の、二つの香炉、そして二つの魂が共鳴した瞬間、奇跡が起こった。陽の香炉から放たれる伽羅の香りは、戦場全体を浄化の光で包み込み、妖術師たちの歪んだ瘴気を霧散させた。龍人たちの魂は完全に癒やされ、その力は純粋な輝きを取り戻し、彼らの内なる龍が、喜びの咆哮を上げた。グエンは、黄金の龍そのものとなり、その慈愛に満ちた威光の前に、妖術師たちは戦意を喪失し、自らの過ちを悟ったかのように地に膝をついた。
戦いが終わり、静寂が戻った戦場に、光の渦が現れた。それは、現代へと続く道だった。葵の、涙に濡れた優しい声が、健司の魂に直接響いた。「健司さん…!お願い、戻ってきて…!」
清正は、万感の思いを込めて健司の肩を抱いた。「緒方殿、そなたは、この火の国に、いや、この世界に真の調和をもたらしてくれた。この恩は、言葉では尽くせぬ。だが、そなたの魂が求める場所は、ここではないのだろう」。
グエンもまた、深々と頭を下げた。「あなたの魂が焚いた伽羅の香りを、我ら龍人は永遠に忘れまい。この香りが、我らの新たな道しるべとなるだろう」。
健司は、陽の香炉をグエンに託した。「この香炉は、あなたたちが持つべきだ。そして、魂鎮めの伽羅の心を忘れずに、この世界に平和を築いてほしい」。
彼は、光の渦へと一歩踏み出した。懐かしい湯らっくすの塩素の匂い、そして、温かい涙で迎えてくれる葵の笑顔。
健司は、確かに現代に帰還した。手には何も残っていなかった。しかし、彼の魂には、異世界での壮絶な経験と、時空を超えた絆、そして伽羅の香りが深く刻み込まれていた。父・春樹が遺した「戒め」という言葉は、あるいは、この強大すぎる力を軽々しく扱うことへの警鐘であり、同時に、真の調和を知る者だけがそれを扱えるという試練だったのかもしれない。祖父・謙信は、その力の恐ろしさと可能性の両面を理解し、健司にその未来を託したのだろう。
数日後、健司と葵は、夕暮れの湯らっくすの露天風呂にいた。
「本当に、夢のような話だったわね。でも、あなたの瞳を見れば、それが現実だったってわかる」。葵は、夕焼けに染まる健司の横顔を見つめながら言った。
健司は、穏やかに頷いた。「あの香炉は、ただの美術品じゃなかった。魂を繋ぎ、世界を繋ぐ、まさに魂魄の器だったんだ。そして、伽羅の香りは、その魂を呼び覚ます鍵だった。戦国武将が、ベトナムから伽羅を輸入し、龍脈を鎮めようとしていたなんて…歴史の教科書には載らない、壮大な物語が眠っていたんだ」。
健司の傍らには、祖父の工房から見つかった、石黒光南の銘を持つ、もう一つの小さな純金の香炉(謙信が陽の香炉の力を封じ、調和の力だけを残そうとして作ったもの)が置かれていた。健司は、そこに、葵が大切に持っていた最高級の伽羅を一欠片、静かにくべた。芳醇で、どこまでも清らかで、そして力強い香りが、湯けむりと共に二人の心を優しく包み込んでいく。
「この香りは、半日どころか、きっと永遠に、僕らの魂に残り続けるだろうね」。健司は、かつて祖父が言った言葉に、新たな意味を込めて呟いた。それは、二つの世界、過去と未来、そして無数の魂の交響が生み出した、奇跡の金の香煙。湯らっくすの水風呂マッドマックスボタンは、彼にとって、異世界への扉や戒めではなく、自らの魂と向き合い、他者と共鳴するための、聖なる浄化の儀式として、深く心に刻まれたのだった。
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